カルチャー
2024/05/31
「つなぐ力」で街の未来をつくるKDDIフィリピン
フィリピン初の地下鉄開発プロジェクトに参画
2023年12月、KDDIフィリピンが、フィリピン共和国マニラ首都圏の北部ヴァレンズエラ市と南部パラニャケ市を結ぶ、日本政府のODAによる同国初の地下鉄開発プロジェクトに参画することが発表されました。マニラ市街における深刻な交通渋滞や大気汚染という社会課題の解消が期待されています。大型プロジェクトに参画するまでの経緯や意義について関係者の皆さんにお聞きしました。
目次
■インタビュイー略歴
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森田 孝一さん
- ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 (KDDIフィリピン)
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西村 佑太さん
- ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 (KDDIフィリピン)
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若井 祐一さん
- ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 営業3部 (前任:KDDIフィリピン)
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南條 晋一さん
- ビジネス事業本部 ビジネスデザイン本部 官公庁営業部
マニラ首都圏地下鉄事業とは
マニラ首都圏において、北部ケソン市と南部パラニャケ市を結ぶフィリピン初の地下鉄(約25km)を整備する事業。マニラでは近年、人口の過密化から、深刻な交通渋滞と大気汚染が社会問題になっています。
それらの問題を解決するために日本政府のODA事業として本プロジェクトが立ち上がりました。完成予定は2029年度。KDDIフィリピンは、交通システムを提供するフランスのThales S.A.(タレス)と契約し、「機械・電気・軌道(E&M)システム部分パッケージ(CP106)」のうち、通信インフラと料金徴収システムを構築します。
〈KDDIフィリピンが担当する分野〉
通信インフラ構築:配管部材納入・設置、ケーブリング作業、機材設置作業
料金徴収システム:改札機や券売機の設置作業、通信・サーバーなど機材の納入・設置
開発途上地域のインフラ構築に参画
そもそもODAとは何か、基本的なことから教えてください。
南條さん:ODA(Official Development Assistance)とは政府開発援助で、開発途上地域の社会・経済の開発を支援するために、日本政府をはじめ、国際機関などが経済協力し、社会インフラを構築することです。さまざまな形態がありますが、今回のプロジェクトは有償資金協力になります。
▲ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部 官公庁営業部の南條晋一さん
KDDIはこれまでにもODAのプロジェクトに参画したことはありますか。
南條さん:いくつか実績があります。以前、中東の某国でナンバープレート認証システムを構築したことがありますし、実はフィリピンでのODAの参画は今回で2回目です。1回目はダバオ市の新設バイパスにおけるトンネルのITインフラ構築で、現在もKDDIフィリピンにて構築作業を継続中です。
森田さん:KDDIフィリピンの事業は2本の柱で成り立っていて、1つ目の柱は、ITシステムの設計・構築から運用・保守までを一括で提供するSI(System Integration)で、2つ目の柱は、オフィスの内装デザインから、空調・電気の設備工事、家具の手配までを一気通貫に行うOffice Fit-Outです。社内にデザイナーや設備工事の設計者を抱えているので、スピーディーな提案と日本品質が強みで、お客さまの8割が日系企業です。
ODA、社会インフラへの取り組みは3つ目の事業の柱に据えていて、今回のフィリピン初の地下鉄開発プロジェクトへの参画は、KDDIフィリピンにとってとても大きな挑戦です。
▲フィリピンの事務所からオンラインで取材に応じたKDDIフィリピンの森田 孝一さん
KDDIがODAのプロジェクトに参加する意義は何でしょうか。
南條さん:2つの意義があると考えています。一つは、政府予算を活用した大型インフラ構築により売上と利益が拡大し、プロジェクト完了後も現地での保守や派生ビジネスにつながるということ。もう一つは、海外市場でのプレゼンス向上です。ODAでの実績をアピールすることで海外の日系企業にKDDIのケイパビリティが認知され、現地でのSI案件の創出につながります。
若井さん:そうですね。海外だと債権回収の問題がありますが、ODAならリスクが低減できますし、交通渋滞や大気汚染の解消につながる社会貢献度の高い大きなプロジェクトに参画することは、KDDIフィリピンの成長につながり、会社として次のステージが狙えると思います。
受注まで5年。“全方位外交”で糸口を探った
KDDIフィリピンが、今回の地下鉄開発プロジェクトに参画することになった経緯を教えてください。
若井さん:このプロジェクトは、2017年に日本政府が、マニラ首都圏地下鉄事業を含むフィリピンのインフラ整備に1兆円の支援を表明したことに始まります。
南條さん:本プロジェクトの依頼を受けているのは総合商社からでしたが、どこが受注できるかも分からないし、そもそも彼らから「一緒にプロジェクトをやろう」と声がかからないと我々は参画できません。そこで日本側では「全方位外交だ!」とばかりに総合商社各社に総当たりして、KDDIのケイパビリティを訴求しました。
しかし初めの頃は「KDDI? 今回は鉄道のプロジェクトだけど、分かってる?」という反応でした。粘り強く地道に営業活動をしているうちに、カタールやタイでも部分的に鉄道プロジェクトに参画でき、それらの実績を持っていくと、2019年くらいからやっと相手にしてもらえるようになりました。そこまでたどり着くのに結構時間がかかりましたね。
若井さん:当時私はKDDIフィリピンにいました。私たちが狙っていたのは、鉄道システムパッケージの通信設備を中心としたSIでした。自ら1,400億円ものパッケージ全体の落札者になるわけではないので、応札する可能性がある商社や主要なサブコン候補企業、プロジェクトを主導している建設コンサル会社等に営業をかけました。
▲ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部 営業3部の若井祐一さん
受注までの過程で、印象に残っていることはありますか。
南條さん:2020年1月に、マニラでフィリピンの運輸省主催の入札説明会がありました。応札する商社だけでなく、サブコンも含む100人くらいが参加したのですが、KDDIも、日本とフィリピンから15人くらいで押しかけました。1社せいぜい2~3人なので、大所帯のKDDIは非常に目立っていて、その場にいた人たちに本気度を示せたと思います。その後2020年4月に、三菱商事マシナリ社から見積もり依頼の声がかかり、サブコンソーシアムの一つで、今回交通システムを提供するフランスのThales S.A.(タレス)との契約に漕ぎ着けることができました。
自国の社会インフラ構築に関われる喜び
KDDIフィリピンでは、どのようにして体制を構築しましたか。
西村さん:私は2019年にフィリピンに赴任したのですが、既に南條さんと若井さんが敷いてくれたレールがあって、座組みは決まっていました。三菱商事マシナリの下請けのThales S.A.社はフランスの会社ですが、同社のシンガポールにある現地法人の担当者と一緒に契約や作業区分を細かく決めていきました。
工事会社のコネクションがなく困っていたのですが、マニラで交通システムの実績がある三菱重工の方と話をしたり、地場の会社が関心を寄せて訪ねてきたりして、いまではネットワークが広がっています。
▲フィリピンの事務所からオンラインで取材に応じたKDDIフィリピンの西村 佑太さん
若井さん:KDDIとしても未経験の領域だったので、信頼できる現地パートナーを探して提案をまとめてくれた西村さんたちには、大変ご苦労をお掛けしました。
森田さん:ODAのプロジェクトを手掛けることになって、KDDIフィリピンではナショナルスタッフのモチベーションが高まっています。ICTのエンジニアが自ら担当として立候補してくれました。「まさか自分が入社した会社で自国の社会インフラに携われるとは思っていなかった。良い会社に入社できた!」と言ってくれるスタッフもいます。フィリピンの皆さんのより良い生活に直結するプロジェクトであることが、全員の誇りとやりがいにつながっています。
ワンチームでプロジェクトを成功へ
今後の抱負をお聞かせください。
西村さん:まだ受注したばかりで、2030年までの長期プロジェクトです。大型プロジェクトは会社経営と似ていて体制や採算性を見ていかなければなりません。想定外のことも起きるとは思いますが、しっかり体制を構築しプロジェクトを成功させたいです。個人的には、新しい分野の知見を広げられることがうれしいです。
森田さん:工事が始まると、4駅同時進行で1駅あたり50人の作業員を配置しますので200人をマネジメントしなければなりません。プレッシャーは大きいですね。我々の使命は、安全第一で日本やシンガポールと協力しながら、プロジェクトを無事に完工することです。ワンチームとなり挑戦していきたいと思います。
若井さん:本当に大変なのは、構築が始まるこれからですが、エンジニア・営業・社内外の関係者が一丸となって乗り切ってくれることを切に願っています!
南條さん:ODAの案件は、KDDI Sustainable Actionにおける途上国の基盤整備のど真ん中の活動だと考えています。完工まで苦労も多いと思いますが、直面する課題を一つひとつ解決していけば、成長の糧となり自信につながると思います。ODAに関わりたい方がいれば、ぜひ一緒に活動しましょう!
▲KDDIフィリピンの皆さん