技術・サービス

2021/12/07

スペースXの衛星ブロードバンド「Starlink」と業務提携。 山間部や島に住む人々に、1日も早く大容量の通信を届けたい

スペースXの衛星ブロードバンド「Starlink」と業務提携。  山間部や島に住む人々に、1日も早く大容量の通信を届けたい

KDDIはスペースX社が提供する衛星ブロードバンド「Starlink(スターリンク)」と2021年9月に業務提携し、携帯電話基地局と基幹網をつなぐバックホール回線に利用していくことを通信会社として世界で初めて発表しました。この発表に至るまでの経緯や、従来の衛星通信との違い、今後の可能性について、河合さん、橋本さん、大谷さん、松田さんにお話をお聞きしました。

目次

■インタビュイー


河合さんプロフィール

技術統括本部 グローバル技術・運用本部
河合 宣行

橋本 高志さんプロフィール

技術統括本部 技術企画本部 ネットワーク企画部
橋本 高志

大谷 潤さんプロフィール

技術統括本部 技術戦略本部 宇宙・衛星技術企画室
大谷 潤

松田 慧さんプロフィール

事業創造本部 DX企画推進部 企画2グループ
松田 慧

衛星通信の歴史が変わる! 大容量・低遅延の衛星通信が可能に

「Starlink」について教えてください。

河合:「Starlink」は、スペースX社が手掛ける衛星通信サービスです。2018年に初めて衛星の打ち上げに成功して以来、月数回のペースで一度に60基の衛星を軌道に送り込んでいて、現時点(10月のインタビュー時点)で1,700基程度が上がっています。最終的には数千基で地球全体をカバーする計画です。
2020年に北米で「Starlink」のβ版のサービスがローンチされ、以来各国で約10万人が契約、直径約55cmのアンテナを設置して100Mbps超の高速インターネットを利用しています。

s「Starlink」のアンテナ。直径55cmとコンパクトで簡単にセットアップできる

▲「Starlink」のアンテナ。直径55cmとコンパクトで簡単にセットアップできる

従来の衛星通信と「Starlink」の違いは何ですか?

大谷:「Starlink」は、これまで主に利用してきた衛星通信とは仕組みが異なります。従来の衛星通信は、赤道上空、高度36,000kmにある静止衛星を利用しています。この高度ですと地球の自転と周回のペースが同じになるので、地上からは止まっているように見え、常に同じエリアの通信をカバーすることができます。

それに対して「Starlink」は、高度約550kmにある非静止衛星を利用します。赤道上空以外にあるため地上から見ると常に動いていて、もし衛星が一つしかなければ、見えない間は通信が途絶えますし、低軌道なので割とすぐに見えなくなります。そこでたくさんの衛星がチームになって連携・協調する「衛星コンステレーション」が発想されました。衛星間でリレーのバトンを渡して切り替えを行うことで通信を継続できるのです。しかも静止衛星に比べて低軌道のため地上との距離だけで計算すれば遅延は65分の1、衛星の数も日本の上空に常時複数基あり大容量の通信が可能になります。

低軌道非静止衛星のイメージ1

低軌道非静止衛星のイメージ2

▲低軌道非静止衛星のイメージ

低軌道非静止衛星のイメージ

▲技術統括本部 グローバル技術・運用本部 河合 宣行さん

今後の計画を教えてください。

松田:今回の業務提携により、まず2022年(目処)から順次、au基地局1200カ所超のバックホール回線を「Starlink」で高速化することを計画しています。ちなみに、携帯電話と衛星が直接つながるのではなく、現状、光ファイバーが敷設できず、既存の衛星回線などでつながっている基地局のバックホール回線を「Starlink」の衛星通信に置き換えます。これにより、山間部や島しょ地域などの通信速度が改善され、動画などを快適に使えるようになります。

バックホール回線

松田:さらに、車載型移動基地局にも採用し、災害時の対応に役立てていくことも検討しています。災害時の避難所生活が長引くと、動画を見たり、ゲームをしたり、通話以外のやりたいことがでてくるかもしれません。そうなったときに、車載型移動基地局でも大容量な通信網を提供できれば、ご要望にお応えすることができます。

事業創造本部 DX企画推進部 企画2グループ 松田 慧さん

▲事業創造本部 DX企画推進部 企画2グループ 松田 慧さん

コンパクトな衛星開発がブレイクスルー。非静止衛星で強くなるネットワーク

スペースX社との協議はどのように進みましたか?

河合:「Starlink」の情報を初めてキャッチしたとき、いよいよ非静止衛星の時代が来るぞ!と確信しました。実は非静止衛星を使った衛星通信のコンセプト自体は、20年前からあったのですが、衛星がたくさん必要なので、打ち上げ費用を考えると採算がとれませんでした。しかし、スペースX社が使い捨てだったロケットの再利用を成し遂げ、コンパクトな形の衛星も開発して打ち上げコストを大幅に下げるブレイクスルーを起こしたことで、非静止衛星を大量に打ち上げられるようになったのです。

ある日、スペースX社に声を掛け、先方もちょうど日本でのパートナーを探していたところで興味をしめしてもらい、すぐにプロジェクトがスタート。当社も非静止衛星との接続は初めてのことなので、最初は議論するにも共通言語がなく、苦労しました。しかもコロナ禍で直接会えなくなってしまったので、何度もオンラインミーティングを重ねることで関係性を深めていきました。

大谷:先方は通信の規制までとても具体的に捉えて一緒に考えてもらえるので、今では社内の人と話しているような感覚でミーティングをしています。

▲技術統括本部 技術戦略本部 宇宙・衛星技術企画室 大谷 潤さん

▲技術統括本部 技術戦略本部 宇宙・衛星技術企画室 大谷 潤さん

河合:“bring urban mobile experience to rural customers(都市部のお客様体験を地方にも)"というコンセプトを共有できたことはとても重要です。また、スペースX社は、創業者のイーロンマスクが何度も失敗しながらも10年近くかけてファルコンロケットの打上げに挑戦して遂に成功させたというスピリッツを持っており、大変粘り強い会社です。このスピリッツでStarlinkの技術も実現させてきたので、今回の携帯バックホールも、彼らとの連携で必ず実現させることができると考えています。

橋本:この件は社内でも内密に進められていたので、他の人にアドバイスを求めたくても、気づかれないようにするのにも苦労しました。幸い、オンラインだったので感づかれずに済みました(笑)。

技術統括本部 技術企画本部 ネットワーク企画部 橋本 高志さん

▲技術統括本部 技術企画本部 ネットワーク企画部 橋本 高志さん

衛星通信50年の蓄積を土台に、宇宙と通信できる未来へ

今後、「Starlink」との取り組みで期待していることはありますか?

橋本:これまで基地局までのバックホール回線は光ケーブルを扱ってきて、ずっと下ばかり見てきましたが、今は空を見て仕事しています(笑)。「Starlink」は、世界の隅々まで通信を届ける夢の飛び道具。選択肢が増えることにワクワクしています。壮大な夢を必死でサポートしていきたいです! 山間部や島に住む人々に、1日も早く大容量の通信を届けたいですね。

河合:そうですね。この先も、国際間の基幹伝送路が海底光ケーブルであることには変わりありませんが、選択肢が増えることでネットワーク強靭化をより進めることができます。「Starlink」によって、地方にも都市のような経験をお届けできることで、デジタルデバイドの解消につなげていきたいです!

大谷:「KDDI Accelerate 5.0」でも低軌道衛星通信は重要なテクノロジーの一つに位置付けられています。まだ衛星通信の新しい時代は始まったばかりです。地道なタスクの積み重ねの面も多いですが、衛星通信の技術革新の成果を現地現物で携われる喜びを日々感じています。

河合:宇宙ビジネスをどう有効活用していくか、未知の世界が広がっています。将来的には、この技術が宇宙との通信を可能にするかもしれません。でも私たちがここに到達できたのは、50年かけて先人たちが築いてきたKDDIの衛星通信の技術があったからこそ。このバトンを次の世代に渡していきたいと思います。

松田:夢とロマンがあるプロジェクトに関われてワクワクします。本当に“面白いほうの未来”に向かっていますね。可能性は無限に広がっています。

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