技術・サービス
2022/02/15
世界一、世界初を生み出すぞ! 海外最先端の研究者との共同研究プロジェクト
KDDI総合研究所が2020年から開始した、海外研究機関との「共同研究プロジェクト」(以下「本プロジェクト」)。
KDDI総合研究所(※)の研究員を、世界最先端レベルの研究を行う海外の大学の研究室に派遣し、現地の研究者・学生とともに研究を進めるプロジェクトです。開始して1年ほどですが、すでに成果を生み出しつつあり、研究員の成長にもつながっています。今回、このプロジェクトを立ち上げたKDDI総合研究所の小野さんにお話を伺いました。
※次世代技術創出のための調査分析、研究開発、実用化までを担うKDDIのグループ企業。
目次
■インタビュイー略歴
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小野 智弘
- KDDI総合研究所 データインテリジェンス部門 部門長
1994年入社。ソーシャルメディア解析、顧客行動分析、行動変容技術、情報推薦などを担当。スタンフォード大学への留学やシリコンバレーでのスタートアップ企業連携を経験したのち、 現在はフィジカル空間特有の課題を解決するAI開発に取り組んでおり、2020年10月に本プロジェクトを立ち上げて加速を図っている。
最先端の研究機関との連携により迅速な成果創出を
ーーKDDI総合研究所で取り組まれている「共同研究プロジェクト」ついて教えてください。
2020年10月に開始した本プロジェクトは、海外で最先端のレベルの研究を行っている大学の研究室にKDDI総合研究所の研究員を派遣し、派遣先の大学でも博士課程の学生をアサインしていただき、専属研究員が大学の先生の指導を受けると共に、日本側の研究メンバーもしっかり関与するという仕組みの共同研究です。
▲ 「共同研究プロジェクト」の体制
KDDI総合研究所では、これまでも国内外の大学をはじめとした外部との共同研究や、研究員の海外留学を行ってきました。ただし、これまでの共同研究では、テーマと役割分担を決めた後はそれぞれで研究を行い、研究者である大学の先生から密な指導を受ける機会は必ずしも多くありませんでした。また、海外留学では先生の指導を受けるのは留学する研究員個人であり、組織として、最前線の研究現場から受ける刺激や獲得できるノウハウが弱い点が課題でした。
本プロジェクトの仕組みには、2つのメリットがあります。
1つ目は、KDDI総合研究所の研究員と学生がともに研究を行うことで、お互いに緊張感が生まれることです。世界最先端の研究室の学生は驚くほど優秀です。例えばAIの研究では、既存のさまざまな手法と私たちが考案した手法の精度を比較するために、たくさんのプログラミングを実装する必要があるのですが、研究室の学生はあっという間に実装してしまいます。一方で、KDDI総合研究所も新しいアルゴリズムの考案や企業研究所ならではの実事業に基づいた課題設定などで貢献しており、双方にとって大いに刺激となっています。実際、このプロジェクトに携わっている研究員はこの1年で一気に実力をつけています。現在の本プロジェクトの研究員は若手社員が中心ですが、成長した彼らがこれからの総合研究所を引っ張ってくれることを期待しています。
2つ目のメリットは、総合研究所と研究室の双方が研究に対して全力で取り組み、組織として大きな知見を獲得する環境を築けることです。通常の共同研究や留学と違い、双方から専属研究員をアサインすることで私たちも大学側も成果を生み出す本気度が増し、密な連携ができるようになっています。プロジェクトには日本国内の研究員も参加しており、通常の共同研究より多くの手間がかかりますが、世界の最先端を行く研究者から得られる知見は個人としても組織としても非常に大きいです。
現在は「AI」「ネットワーク」「XR」の3つの分野で、米国とドイツの8つの研究室と連携しています。2020年はコロナ禍の影響でKDDI総合研究所の研究員は日本にいながらリモートで研究に携わっていましたが、2021年9月から順次、現地赴任を開始しています。また、この1年間の取り組みを経て、新たなテーマや連携先候補も出てきており、AI分野以外も含め、本プロジェクトを拡充していく予定です。
▲ (左から)Leskovec准教授の研究室の学生のYasunagaさん、スタンフォード大学のLeskovec准教授、KDDI総合研究所から派遣されている王 亜楠研究員
ーー「共同研究プロジェクト」を開始された理由を教えてください。
本プロジェクトは、先端技術研究所のスローガンである「世界一、世界初」の成果創出を、どうやったら実現できるかと考える中で生まれたものでした。
KDDI総合研究所の社員数はKDDIからの出向者を含めて約300人です。そのうち約170人が先端技術研究所に所属し、「KDDI Accelerate 5.0」(※)で掲げる7つの分野のテクノロジーの研究を進めています。限られた人員で世界の研究機関と渡り合うためには、外部の研究機関との連携は非常に重要な意味をもちます。
現在の仕組みがベストな形なのかはまだ分かりませんが、この1年間の研究員の成長や研究成果を見ていると「世界一、世界初」の実現に近づいているのではないかと考えています。
※「KDDI Accelerate 5.0」:内閣府が提唱した未来社会のコンセプト「Society5.0」の実現を、KDDIグループが持つテクノロジーと環境整備で加速させること。「Society5.0」は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義されている。
知名度や肩書ではなく近年の実績を重視
ーー連携先の大学や研究者、研究室はどのように選んでいるのでしょうか。
年齢やコネクションの有無に関係なく、直近で研究成果を上げていることを重視しています。まず初めに、私たちが強化したい研究テーマにおける、世界トップの研究者をピックアップしました。直近数年間で、研究者や学生の発表が世界最高峰の会議に採録され続けていることを判断材料にしています。AI分野に関してお話しすると、現在連携している研究者は直近1年間で研究室から最難関国際会議に5件以上採録されている方、若くしてAIトップ会議のGeneral Chair(会議の総責任者)を務めている方、世界的なAIコンペで3年連続世界1位になった方、米国AI学会の元会長など、そうそうたるメンバーです。
また、現在成果を挙げていることにこだわったのは、最先端の技術を生み出していく考え方や研究方法などを吸収していきたいと考えたことが理由です。いわゆる大御所で名前が通っているけれど、直近で成果が出ていない研究者は候補から外しています。
▲ 現在連携する大学・研究者
KDDIを知ってもらうことから始めた、ゼロからの関係構築
ーープロジェクトを進めていく中での苦労はありますか。
海外の大学の先生とのコネクションの構築はとても苦労しました。海外のAI分野ではKDDIのことを知らない研究者の方が多く、まずはKDDIがどのような企業で、総合研究所でどのような活動をしているのかを知っていただくことから始まります。全然知らない企業から来たメールに対して、返信していただけるかが勝負です。最初のメールを送った時はまだコロナ禍の前だったので、開催されていた学会に合わせて渡航して直接お話する機会を作ったり、飛び込みでアポを取って学会や大学に出向くなどして、承諾を得ることができました。
コロナ禍となってからは渡航して直接話をする機会を設けることができず、信頼関係を構築することに腐心しました。オンラインミーティングを頻繁に開催して、双方が納得できるテーマや、先生毎に納得いただける進め方を検討しました。
身を置くのは超一流の研究室。自分を高めるまたとない機会
ーー最後に、現在就職活動中の方や学生さんに向けて、メッセージをお願いします。
KDDI総合研究所は比較的小規模な組織ではありますが、新しいテーマの研究プロジェクトを迅速に立ち上げたり、複数の分野で連携する横断型の研究、本社事業部との連携のしやすさなど、少数精鋭で機動性が高いことは強みであると考えています。本プロジェクトは「世界一、世界初」を目指す総合研究所の方針を実現する上での現状の最適解と考えており、意欲さえあれば自身の成長につながる、非常に貴重な機会になるはずです。
もちろん、海外で不安なく研究を進められるよう、KDDI総合研究所だけでなくKDDIアメリカ・KDDIヨーロッパにもサポートしていただいています。世界トップクラスの研究室にたった一人で送り込まれ、周りは皆優秀な人ばかりという厳しい環境ですが、成長したい人には最高の機会ではないでしょうか。