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2023/03/23

Opening a new space age, together 向井千秋さんと考える、宇宙と向き合うことの意義

Opening a new space age, together 向井千秋さんと考える、宇宙と向き合うことの意義

2023年2月21日、22日の2日間にかけて、KDDIではKDDI SUMMIT 2023を開催いたしました。本記事は、「Opening a new space age, together 衛星通信の進化、月探査に向けたあくなき挑戦」の対談の様子を、本編ではお見せできなかったシーンも含めてまとめたものです。

人類の次なるフロンティア開発として、国際的にも注目を集めている宇宙産業。物理的にも心理的にも遠い宇宙空間や月面を、より身近で、安心安全な環境とするために私たちにできることとは。そして、いま、宇宙と向き合うことの意義とは。

これを読んだらもう他人事だと見て見ぬふりはできなくなる!?さまざまな側面から宇宙に深く関わってきたプロフェッショナルと一緒に、ココロオドル宇宙の旅へ、行ってらっしゃい!

目次

■インタビュイー略歴


向井 千秋

向井 千秋

1994年スペースシャトル・コロンビア号に搭乗し、微小重力科学、生命科学、宇宙医学等の実験を実施。1998年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、宇宙医学や生命科学分野の実験を実施。国際宇宙大学教授、JAXA宇宙医学研究センター長を経て現在は東京理科大学特任副学長に就任。
市村 周一

市村 周一

JAXA宇宙科学研究所で月面構造物に係る研究や筑波宇宙センターで国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟JAXAフライトディレクタ等に従事。コンサルファームで、さまざまな業界の事業開発や事業・技術戦略策定支援を経てKDDIに入社。現在、宇宙事業・技術戦略策定および関連する企画を担当。

月から満地球を見るという夢

月から満地球を見るという夢

市村:まずは注目の集まる宇宙産業を取り巻く状況について整理していきましょう。
これまでは宇宙に取り組むためには莫大な資金が必要であり、リスクも高いことから民間で取り組むことが難しい領域でした。しかし、技術革新によって宇宙への物資輸送のコストが低廉化したことで民間での活動が拡大しつつあります。また、NASAが主導するアルテミス計画では再び月面に人類を送ることを目指しており、民間ロケットや民間宇宙船で民間製品を宇宙に持っていこうとする試みなど、宇宙開発の主役が民間に変わってきていることが見て取れます。

再び月面に人類が降り立つ日もそう遠くないのかもしれません。向井さんの夢もそこに関連していると伺いましたが、向井さんの夢について教えていただけますか。

向井さん:私の夢は故郷である地球を宇宙から見てみたいということでした。そうすることで、自分の視野を広げていきたいと思ったからです。アポロ11号が月に行ったニュースを見て、月面から地球を見た事実に衝撃を受けるとともに、行けるなら自分も行ってみたいと思いました。太陽は直接見ることができないので、私たちにとって目で見ることができるもっとも身近な天体は月です。特に、日本人はお月見やかぐや姫など月を見る文化が根付いています。そんな親しみ深い月から、私たちが普段月を見上げるように、まん丸の地球、満地球を見たいと思うようになりました。それが今の私の夢です。

私が宇宙に行った頃は低軌道と呼ばれる地球の周回まででしたが、アルテミス計画では月に行こうとしていて、民間の参入も進んでいます。近い将来、宇宙旅行も含めて、仕事だけではなく一般の人も月に行ける世界になるでしょう。そんなエキサイティングな時代の到来を前に、私はとてもワクワクしています。

市村:私もワクワクが抑えられないです(笑)。視野の広がりという点では、月は地球の1/6の重力ですから、月面の生活は、地球での日常生活と比べ大きく変わるように思えます。そういった環境の違いから気づけることもありそうですね。

向井さん:私たちの生活の中には、「上下」や「重さ」を意識した表現があふれています。それは、地球上のすべてのものが地球の重力(1G)を前提に作られているからです。無重力の宇宙に行き、そして、帰ってきたとき、私が感じた変化は、風が吹いたり、カーテンが下に伸びていたり、といった当たり前のことに、なぜこんな動きをしているのだろうと疑問を抱くようになったことでした。私たちは重力がある生活に慣れすぎていて、固定概念にとらわれ、多くのことに疑問を持てていなかったことに気づきました。自分を省みるとても良いきっかけとなったと思います。

月の重量は地球の1/6なので、私たちの当たり前が大きく変わります。例えば、月でオリンピックをしたら、速く走ることよりもいかに空中に浮いていられるかを競うような競技がうまれるかもしれません。宇宙、月面に人類が出ていくということは、技術的な革新だけではなく、モノの見方や考え方を変えてくれる、そういった意味も持っているのです。

市村:宇宙に目を向けるということは、私たちの当たり前と向き合うきっかけになるのですね。

向井さん:ちなみに植物や微生物が重力の方向を感じ始めるのは0.2~0.3Gといわれています。植物は重力の方向に根を張ろうとしますが、月の重力は1/6とそれよりも小さいので、重力の方向を感じるためには、人工重力を発生させることが必要になってきます。そのときは、1Gではなく、0.3~0.4Gくらいがちょうどよいのかもしれません。これからは、そうした重力発生の研究が面白くなってくるでしょうね。

地球という星の多様性に気づく

地球という星の多様性に気づく

市村:月面に降り立ち、満地球を見ると非常に鮮やかな地球を見ることができると思います。特にこの色合いが月との大きな違いになると思いますが、何かお感じになられることはあるでしょうか?

向井さん:月面から見た満地球は、非常に美しいブループラネットでしょう。たくさんの色が含まれた自分の故郷の美しさを感じるとともに、多くの人がこの美しい星に生きているんだ、という多様性を感じ取れると思います。多様性というのは社会の中にいるとなかなか気づけないですが、満地球を見て月から地球に住む人に思いを馳せることで、心から多様性を実感できるのではないかと思います。私たちが月を見ながら月見酒をするように、月面から満地球を見て、お酒を飲みながら地球に住む家族や友人に思いを馳せる、そんな素敵な未来が早く来てほしいですね。

市村:私も早く満地球を見てみたいです。多様性という言葉がありましたが、弊社の掲げるKDDI VISON 2030では、人々の多様化した思いを実現する社会を目指すことを掲げています。宇宙や月面から故郷である満地球を見ることは多様性について気づく、一つのきっかけになるのですね。

向井さん:おっしゃる通りですね。一人ひとりが輝き、それをつなぐことが大切です。子どもたちに「12色の色鉛筆と36色の色鉛筆があったらどっちが欲しいか」と聞くと多くの子どもが36色を選びます。なぜなら、色が多いほどわずかな色の違いを表現することができて、より複雑で温かみがある絵をかくことができるからです。一人ひとりの個性がつながることで表現できる幅が広がり、より温かい世界を作ることができるのだと思います。

多様性に気づくということは、自分中心ではない視点を持つということです。地球中心である天動説から自分たちが回っているという地動説に変わったことと一緒です。例えば、地上でドアノブを回せばドアが開きますが、宇宙ではドアノブを回そうと思うと自分が回ってしまいます。自分が押せば相手はその通りに動くと私たちは思ってしまいがちですが、重力から解放されることで当たり前と思っていたことが変わり、客観的に相手の立場を理解できるようになると思います。

市村:多様性を認めることが大切だとは、多くの人が頭ではわかっていますが、宇宙に行くことで心から感じて理解でき、サステナブルな社会の実現につながるということですね。

宇宙の取り組みがサステナブルな地上の構築につながる

宇宙の取り組みがサステナブルな地上の構築につながる

市村:満地球を見るという夢に向けた向井さんの所属される東京理科大学での取り組み、そして、弊社の宇宙に向けた取り組みについて紹介したいと思います。東京理科大学ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?

向井さん:私たちは月面に人が住むことを前提とした滞在技術(衣・食・住)の高度化と社会実装に取り組んでいます。理系の総合大学である東京理科大学ですが、私が入ったころはまだ宇宙に取り組んでいなかったので、「これからは宇宙だ」ということで取り組み始めました。ロケットや衛星などのテーマは他の大学も取り組んでいたので、誰にとっても身近である衣食住に焦点を当てて、多くの人が興味を持って参加してもらえるようにしています。

市村:宇宙という資源の限られた場所での生活をデザインすることは、地球でのサステナブルな生活の実現につながっていきますね。ESG投資によって企業活動にもサステナブルな取り組みが求められているので、企業にとっても重要な視点だと思います。

当社では、地上と月面をつなぐ通信網の概念検討をJAXAやスタートアップと行っています。通信キャリアとして、地上の通信網を月にまで広げるための技術的な取り組みは欠かせません。また、教育の観点からも宇宙に向き合っています。α世代の方を対象として、グループ会社のキッザニア福岡に宇宙訓練センターを作り、宇宙船の外で行う作業のお仕事などを楽しみながら学んでもらうことで宇宙視点を持った人財育成にも取り組んでいます。

向井さん:これからの未来を築いていくZ世代、α世代へのアプローチは重要なことですね。最も重要な資源は人財です。Z世代、α世代、そして次の世代に思いをつないでいくことで歴史は紡がれていきます。いつの日か月面にいる彼らがこの対談のことを思い出して自分たちのやっていることに紐づけてくれたらうれしいですね。

みんなで一緒に宇宙に取り組もう

みんなで一緒に宇宙に取り組もう

市村:ご覧になられている方の中には、私は宇宙にどう関わればいいんだ、と思っている方もいらっしゃるのではないかと思います。ビジネスマンはどう宇宙に関わっていけばよいのか、アドバイスをいただけないでしょうか?

向井さん:いまは宇宙に取り組む絶好のチャンスです。地球は思っているよりも小さく、これまで、資源は無限にあると錯覚し、地球をあまり大切にしてこなかったことが温暖化やごみ問題などの地球規模の問題がつながっています。SDGsやESG投資、非財務情報に目が向いているいまこそ、資源が限られる宇宙で取り組みに目を向け、そのノウハウを自社の活動に活かすことは、一石二鳥にも、三鳥にもなると考えています。みなさんの興味や投資できる金額に応じて、やりたい人がみんなとワイワイやれる、そんなコンソーシアムのようなものが作れるといいですね。

月面といっても様々な仕事の関わり方があります。月面にいる人だけでなく、メタバース上で月にいる人、地球から遠隔で月面のロボットを操作する人が一緒に仕事をする、そんな時代になるでしょう。

また、宇宙にはまだまだ開拓する場所がたくさんありますが、資源は限られています。そして、限られた資源を有効活用することは天然資源の乏しい日本でビジネスを行ってきた日本企業の得意領域だと思います。

市村:たしかに多種多様な企業が取り組みを始めていますし、どんな産業の人でも月に関係がない人はいないという時代がやってきていますね。
向井さんとのお話を通じて、宇宙に取り組む意義として大きく分けて5つのポイントがあることが分かりました。

宇宙での生活関連分野に取り組む意義

最後に皆様へのメッセージをお願いいたします。

向井さん:ガガーリンが宇宙に行ってから60年余り。人類が宇宙に取り組むことで得られた、最も大きな果実は俯瞰した目線で物事を捉えるチカラではないかと思っています。故郷である地球の全体像を宇宙から見て、興味があるところにズームインして、またズームアウトする。宇宙から見た地球の写真を見ることで、多様性を受け入れ、資源の限られた地球で一緒に生きていることを感じることができると思います。

サステナブルな社会を作っていくためにも、一人ひとりが手を取り合ってポジティブに楽しく取り組んでいく、そんな風に皆さんと一緒に仕事をしていけたらと思っています。次回は、メタバースなどの仮想空間も活用して、“月面で”月にちなんだカクテルでも飲みながら対談したいですね!

市村:ぜひ、次は“月面で”お願いいたします!
何度もお伝えしましたが、いまこそ宇宙産業に参入する絶好のチャンスです。宇宙に取り組んでみたいと思った方がいれば、東京理科大学でもKDDIでも是非ご連絡をください。月から満地球を見る、そんな未来を一緒に作ってきましょう。
Opening a new space age, together!
という言葉でこの対談を締めくくりたいと思います。本日はありがとうございました。

向井さん:ありがとうございました。

Opening a new space age, together!

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