カルチャー

2023/12/28

南極地域観測隊とKDDI 極地の通信を守る誇り

南極地域観測隊とKDDI 極地の通信を守る誇り

日本から約14,000km離れた南極にある昭和基地では、観測データの送信や、そこで暮らす観測隊と家族をつなぐ通信手段として、「インテルサット衛星通信」が重要な役目を果たしています。この回線の安定稼働を守るべく、第63次南極地域観測隊として活躍されていた三井さんに南極での生活や求められることなど伺いました。

目次

■インタビュイー略歴


三井 俊平

三井 俊平

KDDIパーソナル事業本部 マーケティング統括本部
システムマネジメント部 システム企画グループ

社内公募にて第63次南極地域観測隊 越冬隊員へ。2021年12月より昭和基地に赴任し、衛星通信「インテルサット」の運用保守を担当。2023年3月に帰国し、現在はau PAYなどのプロジェクト支援を行う。

南極が結んだKDDIとの縁

南極が結んだKDDIとの縁

「南極に行こう」と思ったのはなぜですか?

大学時代にオーロラの発光強度とGPSの測位誤差に関する研究にかかわり、南極のデータに日常的に触れていたことがきっかけです。
「一度は現地でオーロラを見ておきたい」とは思っていたものの、なかなかチャンスがなく。そんなとき、南極地域観測隊を派遣している国立極地研究所の隊員名簿に“KDDI”の文字を見つけました。KDDIであればこれまで勉強してきた情報通信の知識を活かせるし、思いを叶えられるはず。そう考え、迷わず入社しました。

学生時代から南極に興味を持たれていたのですね。入社後は、すぐに南極行きが決まったのでしょうか?

いえ、かれこれ7年ほどかかりました。KDDIでは入社4年目になると南極地域観測隊の社内公募に応募できますが、ちょうどその頃、auコマース&ライフ株式会社の立ち上げメンバーとして出向することになりまして。当時はグループ会社へ出向していたため、南極はしばらくお預けとなりました。数年後、KDDIに戻ってから必要な免許(第一級陸上特殊無線技士)を取って公募にチャレンジし、晴れて第63次南極地域観測隊へ参加できることとなりました。

南極に行ったら日本には一年以上帰れませんが、不安はありませんでしたか?

南極の通信を守ることへの責任を感じながらも、生活面では「たいていのことはなんとかなるだろう」と前向きに考えていました。
不安なく過ごせたのは、過去に赴任されていたKDDIの先輩方の存在が大きいかもしれません。南極への出港前の講習では現地の仕事や生活についていろいろと教えていただき、私が南極に行ってからも「生活はどう?」「なにか困ったらいつでも相談してね」と日本からメールを送ってくれました。OB・OGは皆現地に強い思い入れがあり、“南極”を合言葉にすぐに集まりがちです(笑)。

三井さんインタビュー

肌で感じた“お客さま視点”の重要性

三井さんにとって、ネットワークの運用保守は初めての仕事ですよね。大変だったことはありますか?

KDDI社員は、昭和基地で暮らす隊員たちのインターネット環境にも責任を負っています。仕事で日常的にビデオ会議を使う人もいますし、日本にいる家族との連絡にもSNSが不可欠。いわば自分が管轄するサービスの“お客さま”がすぐ隣の部屋に住んでいる状況で、なかなかのプレッシャーがありました。

実際、「なんか通信が不安定」と声が上がってくることもしばしば。現地ではデータ通信の容量をみんなで分け合っている以上、私一人で対処できることは多くありません。隊員約30人が快適に使うための注意事項や使用量の目安を共有しつつ、一人ひとりの事情を聞き、共通ルールを決めていきました。
これはサービス開発に通じるものがあると感じています。事業者側の事情を一方的にお伝えするのではなく、まずはお客さまが本当に求めている利用のタイミングや質を見極め、それを軸にサービスの骨格(ルール)を組み立てる必要がある──ユーザーの声が直接耳に入ってくる環境に身を置いたことで、“お客さま視点”の重要性を肌で感じました。

昭和基地の衛星通信「インテルサット」アンテナ(直径7.6m)のメンテナンス中。安全帯を装着し、高所で作業します

▲昭和基地の衛星通信「インテルサット」アンテナ(直径7.6m)のメンテナンス中。安全帯を装着し、高所で作業します

と思ったら、今度はこんなに低い位置で体全体を使った作業も

▲と思ったら、今度はこんなに低い位置で体全体を使った作業も

助け合いは当たり前。南極生活の土台は仲間とのコミュニケーション

南極地域観測隊に求められる素質はなんだと思いますか?

コミュニケーション能力ではないでしょうか。南極地域観測隊には研究データを観測する学者から、車両の整備や発電・通信担当、調理人、ドクター、ハウスメーカーの大工さんなど、各分野のプロが集まっています。それぞれが自分の役割を持っていますが、南極での生活は「一人ひとつ」の役割だけをこなしていてもスムーズには回りません。
例えば、ブリザード(吹雪)で雪に埋まった圧雪車を一人で掘り起こして使える状態にするのは困難です。車両担当に指示してもらいながら、重機を触ることも日常茶飯事でした。
反対に、通信設備のメンテナンスを手伝ってもらうことも一度や二度ではありません。重要なことは周りといかに協力し合えるかだと思います。

ブリザードですっぽり埋まった圧雪車を掘り出します

▲ブリザードですっぽり埋まった圧雪車を掘り出します

細かいところは手堀りで着々と。重労働で思わず半袖に

▲細かいところは手堀りで着々と。重労働で思わず半袖に

まるで立山の「雪壁」。こんなに高く積もります

▲まるで立山の「雪壁」。こんなに高く積もります

時には研究チームの支援に行くことも。氷河の上でのキャンプはとっておきの思い出

▲時には研究チームの支援に行くことも。氷河の上でのキャンプはとっておきの思い出

南極にいる間は、遭難や事故の危険がありますから、仕事中も食事中もずっとみんなと一緒です。だからこそ、その人の仕事の役割だけでなく、バックグラウンドや考え方も含めて深く知ろうと心掛けていました。時間とともにチームの絆が深まっている実感があり、南極生活はますます楽しくなりました。

南極の生活ってどんな感じ? 現地の写真を大公開!

【食事編】
和洋中なんでもあります。時には見たことのない大きさの秋刀魚やA5ランクのお肉など大満足のメニューが出ることも。食事面で日本が恋しくなることはありませんでした。

スープも麺ももちろん手作り。冷えた体に沁みわたります……

▲スープも麺ももちろん手作り。冷えた体に沁みわたります……

毎月開催される隊員の誕生日パーティーでは、なんとお寿司が登場!

▲毎月開催される隊員の誕生日パーティーでは、なんとお寿司が登場!

プロの調理人による作りたての料理を堪能(二人のうち一人は寿司職人さんでした)

▲プロの調理人による作りたての料理を堪能(二人のうち一人は寿司職人さんでした)

自然の“冷蔵庫”を活用してつくったクッキーは絶品!

▲自然の“冷蔵庫”を活用してつくったクッキーは絶品!

南極では水耕栽培で「ワサビ菜」などの葉物を育てています

▲南極では水耕栽培で「ワサビ菜」などの葉物を育てています

なぜかお菓子は食べ放題

▲なぜかお菓子は食べ放題

【住まい編】

個人部屋はベッド、机、クローゼット、床暖房完備。

▲個人部屋はベッド、机、クローゼット、床暖房完備。

【イベント編】

なければ作る!カーリング場も作りました

▲なければ作る!カーリング場も作りました

正月には除夜の鐘も設置しました

▲正月には除夜の鐘も設置しました

餅つき大会も

▲餅つき大会も

【基地の外編】

インテルサットアンテナのレドーム間近にペンギンがやってきました

▲インテルサットアンテナのレドーム間近にペンギンがやってきました

ちょっとした移動手段には自転車も活用

▲ちょっとした移動手段には自転車も活用

日本の小学校とオンライン会議をつなぎ、南極の気温や観測隊の仕事についてリアルタイムで映像を届ける「南極教室」を開催。みんな楽しそうに聞いてくれて安心しました

▲日本の小学校とオンライン会議をつなぎ、南極の気温や観測隊の仕事についてリアルタイムで映像を届ける「南極教室」を開催。みんな楽しそうに聞いてくれて安心しました

三井さんの南極赴任中、KDDI総合研究所との実証実験により8Kの映像伝送に成功しました。詳しくは以下をご覧ください
https://www.kddi-research.jp/newsrelease/2022/121501.html

仲間から刺激を受けて、「主体性」の意味が分かった

普段、これだけいろいろな職業の人と一緒に過ごす機会はないと思います。他の隊員と出会って驚いたことはありますか?

南極地域観測隊の中には、手に職を持たれている、いわゆる“一人親方”的な方が多くいらっしゃいます。彼らの仕事に向き合う姿勢に刺激を受けていました。「主体的に動く」とか「自主性を持って」とよく言いますが、それってこういうことか!と輪郭がはっきりしました。
もし南極で彼らの“仕事っぷり”に触れることがなかったら、日々の忙しさの波に飲まれて、思考停止状態になり、言われたことをやっているだけだったかもしれない。そう思うと、一歩踏み出してよかったなと思います。

「学生時代の研究の『現地現物』に触れられたことも感慨深いです。当時見ていたデータはあくまで一部で、現地で全体の構造やサイズ感を初めて把握できました」と三井さん

▲「学生時代の研究の『現地現物』に触れられたことも感慨深いです。当時見ていたデータはあくまで一部で、現地で全体の構造やサイズ感を初めて把握できました」と三井さん

世界規模の研究と、昭和基地で過ごす人の心を支える仕事

KDDIの社員が南極地域観測隊に参加する意義についてどうお考えですか?

KDDIは直接観測に携わるわけではありませんが、私たちがいることで南極地域の気象や地質などの観測データが世界中に届き、研究を後押ししています。その結果として環境問題の解決に貢献できることに、大きな意義を感じます。

そして何より、南極に行って肌で感じたのがインターネットの重要性です。
家族とチャットや写真を送り合ったり、動画を楽しんだりできることに「あれ、日本とあんまり変わらないじゃん!」と皆驚いていました。2022年12月には、昭和基地でカタールW杯の映像配信を見てみんなで大盛り上がり。

極地で活動する人の精神的な支えになり、研究という側面では世界、地球規模で問題解決に貢献もできる通信を守っていることが、とても誇りに思えました

これから挑戦してみたいことはありますか?

今後のことは考え中ですが、南極で他部門の仕事を手伝っているうちにクレーン車やパワーショベルの扱い方が分かってきたので、帰国後にいろいろな免許を取りました。実は今、日本にある重機はほとんど乗ることができます(笑)。今すぐには難しいかもしれませんが、いつかKDDIの仕事や社会のために役立てたいですね。

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