カルチャー
2024/12/26
お客さまに新たな体験価値を創造!
KDDI MUSEUM完全ハンズフリー自動音声ガイドシステム実証の裏側
2024年6月、KDDI MUSEUMにて、新しい技術を用いた自動音声ガイドシステムの実証がスタートしました。スマートフォンに搭載された「UWB機能」※を利用して、展示物に近づくと自動で音声ガイドが流れるシステムを実現しています。他のミュージアムでは体験できない、没入感のある新しい体験価値を味わうことができます。この実証を実現したのは、普段は関わることが少ない、全く異なる部署に所属するメンバーたち。KDDIのリソースを最大限活用し、新しい体験価値創造に挑んだ皆さんにお話を伺いました。
※UWB(Ultra Wide Band)は、超広帯域無線通信規格のこと。近年、AppleのAirTagを始めとした位置測位システムに採用され注目を集めている。その特長は、高精度の位置測位。ToF(Time of Flight)法を利用して距離を推定し、さらに三点支持計算を用いることにより高い精度でデバイス位置を特定することが可能。
目次
■インタビュイー略歴
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斎藤 充治
- サービス・商品本部 プロダクト企画部
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大野 勝弘
- 先端技術企画本部 システム戦略部 無線通信サービスグループ
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宮田 準子
- グループ戦略本部 KDDIアジャイル開発センター サービスデザイン部
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森井 彩
- 渉外・広報本部 広報部 メディア開発グループ KDDI MUSEUM
イラストでわかる!KDDI MUSEUMの自動音声ガイド体験
国内初!UWBによるスマホ型自動音声ガイド
KDDI MUSEUMで実証している自動音声ガイドとは、どのようなサービスでしょうか?
森井:ハンズフリーでご利用いただける自動音声ガイドサービスです。現在ご希望のお客さまには事前予約制で貸し出ししています。入り口で、専用アプリをインストールしたスマートフォンと骨伝導イヤホンを装着していただくだけ。各展示エリアに近づくとその展示内容を説明する音声ガイドが自動的に再生される仕組みですので、煩わしい操作もなく、お一人お一人のペースで館内を楽しむことが可能です。
▲KDDI MUSEUMの森井 彩。「新しいことって、魅力的ですがなかなか自分たちだけじゃ思いつかないことも多いですよね。さまざまな視点から新しいことを実現できるのはKDDIの強みではないでしょうか」と語る。
宮田:音声ガイドには、人気声優の梶裕貴さんをはじめ、俳優・歌手として活躍する早川咲月さんと山下夏生さんに登場いただいています。先生と生徒が掛け合いをする形で展示内容を解説しており、館内の解説文を読まなくても歩くだけでミュージアムを楽しめるようになっています。
この音声ガイドにはどのような技術が使用されているのでしょうか?
斎藤:スマートフォンに搭載されている「UWB機能」を使用しています。UWBとは「Ultra Wide Band」の略で、超広域帯無線通信を指します。通常の無線通信とは異なり、広い帯域を使用することで高精度の位置検知が可能です。実は、スマートフォンのUWB機能を活用した音声ガイドは日本初なんですよ。
▲サービス・商品本部 プロダクト企画部の斎藤 充治。「自動音声ガイドを知るために、全国の博物館・美術館に足を運びました」と語る。
大野:同じ位置情報測位機能として 「GPS」や「GNSS」が有名ですが、これらは衛星を介しているため、屋内での精度が下がってしまう傾向にあります。UWBは、屋内においても誤差数十センチ以内の高精度な測位が可能です。
斎藤:KDDI MUSEUMの天井に、複数の固定機を設置しています。その固定機から発信された電波を、スマートフォンに内蔵されたUWB機能が受信し、到達するまでの時間を計測することでお客さまの位置情報を測定しています。測定で得た位置情報を利用して、展示物に近づくとその展示物にあった音声ガイドを流すという仕組みになっています。
▲KDDI MUSEUMの天井に設置した固定機。ここから発信された電波を、スマートフォンに内蔵されたUWB機能が受信し、到達するまでの時間からお客さまの位置情報を測定
KDDIのアセットを集結!組織横断でお客さまの「ワクワク」を実現へ
KDDI MUSEUMでの実証に至るまでに、どのようなストーリーがあったのでしょうか?
森井:きっかけは、当時サービス技術部だった斎藤さんより「新しい音声ガイドをKDDI MUSEUMで実証できませんか?」とご相談いただいたことでした。KDDI MUSEUMでは、ただ展示をご覧いただくだけではない、“お客さまに楽しんでいただける仕掛け”を日々考えています。その仕掛けを実現するために、新しい音声ガイドは最適なツールだと思いました。
▲今回のサービス実証の舞台となったKDDI MUSEUM(東京・多摩市)。1871年から約150年間の日本の国際通信の歴史を実物の機器や資料で解説するほか、auブランドで展開する歴代の携帯電話・スマートフォンを一堂に展示している
斎藤:実は、ダメ元でご相談したんです。当時、UWB機能に関するユースケースがなかなか見つからずに頭を抱えていました。技術を商用化する前段階として、実証の機会を見つける必要があったのですが、まだまだ成長過程の技術でしたので、社外にお願いするにはハードルが高く、とてもありがたかったです。
大野:位置情報測位機能の実証のためには、ある程度の床面積がある施設が必要でした。屋外での技術に関しては、ジブリパークでGNSS (Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)による音声ガイドの技術が確立されているため、屋内施設で実証したいという思いがありました。当社で運営しているKDDI MUSEUMであれば、実証可能なのではないかと考えたんです。
▲先端技術企画本部 システム戦略部 無線通信サービスグループの大野 勝弘。「キーレスエントリーやタッチレス決済など、UWBは今後さまざまな形で商用化されていく技術です。エンタメに使われる技術はさらに発展していく傾向にあるので、今回の実証はかなり有意義なんです」と語る。
森井:率直にワクワクしました。新しい技術を活用した音声ガイドを導入することで、展示物や説明パネルを見るだけではない、当社らしい新しい体験価値をお客さまへ提供できると考えました。
宮田:その体験価値をさらに、お客さまに寄り添ったものにするために私たちにもご依頼いただきました。私たちは、お客さま向けのサービスに関してUI・UXデザインを考える部署です。また、社内コミュニティーでは定期的にLT会を開催して、UI・UXデザインによる体験価値創造の事例共有や、学び合いを行っています。そこに参加したKDDI MUSEUMの関係者から、私たちの知見がこのプロジェクトに生かせるのではないかとご相談いただいたんです。
▲グループ戦略本部 KDDIアジャイル開発センター サービスデザイン部の宮田 準子。「KDDI MUSEUMを楽しんでいただくためには、“没入感”が大事だと思っています。そのために、スマホで操作することを極力減らし、お客さまにMUSEUMの体験に没頭していただくことを考えました」と語る。
あるのは熱い思いだけ 手探りでゼロから生み出す
新しい技術を活用するうえで、大変なことも多かったのではないでしょうか?
大野:そうですね。まさに、手探りの状態からのスタートでした。UWBは、スマートフォンに機能として内蔵しているものの、その機能を生かして商用化しているサービスは実はほとんどないんです。事例がない中でも、斎藤さんは「絶対できる」と信念を持っていました。その思いと熱量に皆でついていく思いでしたね。
斎藤:正直、根性で解決した課題もあります。固定機に内蔵している基板は、ホームセンターなどで購入した部品で組み立てました。アプリの開発や固定機の設置位置など、ゼロから自分たちで考えて検証を繰り返しました。
音声が流れ出すまで5分もかかったり、別の場所で流れるはずの音声が流れてしまったり。不具合のたびに凹みながらも諦めずに検証を繰り返し、どうしてもうまくいかないときは、KDDI MUSEUMで夜通し作業する時もありました。
熱いですね! 多くのトライアンドエラーの末、実証にたどり着いたのですね。今回の実証で、特にアピールポイントとなる部分はどこでしょうか?
宮田:使いやすさの観点では、骨伝導ヘッドフォンの採用です。周りの音がかき消されてしまう通常のイヤホンと比べて、周りの人と会話しながら音声ガイドを聞くことができます。
また、お客さまにより楽しんでいただく仕掛けとして、音楽にもこだわりました。サービスの歴史を辿る「思い出タイムライン」のコーナーでは、年表に沿ってその時その時代に流行っていた名曲がBGMで流れるようにしたんです。音楽って時代を強く記憶に焼き付けますから、聞くだけであっという間にその時代の空気に包まれます。五感を生かした新たな展示をお楽しみいただければと思います。
▲「思い出タイムライン」では、年表にあわせた名曲がBGMとして流れる。お客さまは思わず足を止めて懐かしい楽曲に聞き入る。
森井:音声ガイドの内容にもこだわりました。先生と生徒が掛け合いをするパターンにして、お客さまの疑問に寄り添える形にしました。声優の梶裕貴さんには、「なるべくお子さまにも伝わるような柔らかい口調で、観覧いただきたいポイントをわかりやすく紹介したい」という要望に見事に応えていただきました。実際、ミュージアムの中に入って、梶さんの声がイヤホンから聞こえてくると、驚かれるお客さまが多くいらっしゃいます。
最後に、今回のプロジェクトを振り返っていかがでしたでしょうか?
森井:広報部として、新しいサービスをゼロからから立ち上げていく経験を初めてさせていただきました。そして改めて、KDDIにはさまざま分野のプロフェッショナルがいることを実感しました。このように社内の知見を結集させて新しいサービスを生み出していくことで、KDDIは歴史を刻んできたのだなと感慨深く思いました。
宮田:これまで関わりのなかった部門の皆さんと一緒にプロジェクトを進めたのは私たちにとっても初めての経験でした。皆さん熱量がとても高くて、その熱に呼応する形でプロジェクトを進めることができました。また、この取り組みには、当時入社2年目の若手社員にも参加してもらいました。KDDIのプロが集結して新しいことに取り組むエネルギーを若手社員に伝えられたことも、大きな意義だと思っています。
斎藤:UWBの「高精度な屋内位置情報」によって新たなユースケースの可能性が見え始め、それを追求するこの実証は、苦難も含めとてもワクワクしてやりがいのある取り組みとなりました。そしてUWBが大好きになっていました。一方で、私だけでは思いが強すぎて偏りそうになるのを、全員で意見を出し合い、皆さんとチームとして1つになることで、お客さまに楽しんでいただけるサービスに仕上がったのだと思い、とても感謝しています。
大野:まだまだこれからですよ。これからさらに、技術をアップデートしていかなければなりません。サービスを商用化することができれば、多くのシーンに応用可能です。特に、ジブリパークのような遊園地やミュージアムのような娯楽施設など、エンタメ分野に応用できる技術を実証できたことには大きな意義があると思っています。
KDDIがお客さまに一番身近に感じてもらえて、ワクワクを提案し続ける会社になるために、新しい一歩を踏み出せる技術となるはずです。これからも、熱い思いを絶やさずに、ワクワクするような未来に向かって、技術開発を続けていきたいです。
KDDI MUSEUM 自動音声ガイドシステム サービス実証のご案内
https://www.kddi.com/museum/guide/audioguide/
KDDI MUSEUM
https://www.kddi.com/museum/
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